インフレになって何が悪い?:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第4回
中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義
MMT(現代貨幣理論)について分かりやすく解説した『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室』という2冊の本が版を重ねロングセラーに。MMTの最高の教科書としていまも評判になっている。今回BEST TIMESでは中野剛志氏が政経倶楽部で講演した経済の講義を全5回の連載記事にて公開します。最新の経済学の動きや、バイデン政権以降の経済の流れにも触れながら語った貴重な講義。第4回はMMT(現代貨幣理論)によって財政出動を拡大すれば、いずれ「ハイパーインフレになる」「そうなったらどうする!?」という問題について。主流派経済学者や経済エコノミストの多くが指摘するこの杞憂について語る。
■インフレが止まらなくなるというのは杞憂
前回までで、一般に「財政破綻」と呼ばれる三つの現象「債務不履行」「金利の高騰」「ハイパーインフレ」のうち、「債務不履行はない」ということを財務省も認めている話、そして「金利の高騰」も根本的な間違いであることを理解していただきました。
残るは「ハイパーインフレ」ですが、インフレになるという現象は、結論から言うと、あり得ます。「財政支出の拡大が物価を上昇させる可能性」は、間違いなくある。
インフレというものは、「供給に比べて需要が多すぎる」ことによって起きます。そして当たり前ですが、財政支出の拡大は需要を増やします。
例えば、「道路を作りまくるぞ」というと、建設資材が必要になって建設資材の価格が上がりますし、建設労働者が不足して賃金が上がります。こういった話ですね。
従って、たしかに、財政支出を拡大しまくると需要が大きくなりすぎて、どこかの段階でインフレになります。逆に言えば、デフレとは「需要が少なすぎること=供給が多すぎること」ですので、財政支出の拡大をすると、需要が増え、デフレは脱却できるということです。
ですから、よく「財政支出を拡大しすぎるとインフレになる」と言いますが、そもそもこの何十年、日本は「デフレから脱却したい」と言ってるわけでしょう。「じゃあ、財政支出の拡大をやれば」「分かってるんだったら、やってよ」って話です。
ただし、マイルドなインフレだったらいいんですけど、やっぱりインフレ率が100%とかになったら論外ですし、10%以上でもきついかな。例えばオイルショックのときは10%を超えましたけれど、80年代からの40年間は高くて3%ですよね。2%~4%ぐらいのインフレのときには景気がいいですから、これくらいの「マイルドなインフレ」ならいいでしょうということになります。
というわけで、財政支出をやればインフレになりますが、やりすぎると高インフレになる。
ですから、「財政赤字はどこまで拡大できるのか? 」と言ったら、それは「高インフレになる前まで」ということになります。
そうなると「財政規律」という考え方も変わってきます。今までは、財政赤字の上限は「プライマリーバランスの黒字化」とか、「GDP比に占める債務残高が〇〇%以下」とか、そういうことを指して「財政規律」と言っていたわけですが、政府はデフォルトしないのだから、これらの指標は関係ないことになる。
財政規律も、第二回で「機能的財政論」の説明をしたとおり、「物価や雇用など、国民にどういう影響を与えるかで財政を判断しろ」ということになります。
ですから、「財政支出を拡大するとインフレになる」というのがどうしても心配で、何か財政規律がないと心配だというなら、「それなら財政規律は、インフレ率で決めればいいじゃないか」という結論になるわけです。
例えば「インフレ率<4%」という基準を財政規律にして、そこまでは財政出動してもいいけれども、3%を超えたら緩めて、4%を超えそうなら止める。こういった感じで、インフレ率をメルクマールにするのはどうでしょうか。
機能的財政論や「財政赤字が拡大しても心配ない」という話をすると、「じゃあ財政規律はいらないのか」みたいに叫び出す人たちがいるわけです。私は財政規律なんていらないとは思いますけれど、そんなに欲しいのなら、インフレ率を財政規律にすればいい。あなたたち自身「財政支出を拡大しすぎるとインフレが止まらなくなる」と言っているのだから、それでいいじゃないですか、ということです。
そうなると今度は「いやいや、そんな基準は守るとは限らない」みたいに言いだすわけですが、それを言ったら「プライマリーバランスの黒字化」という財政規律だって守るとは限らないじゃないですか。そんな有害無益かつ守れない目標には固執していながら、どうして、それ以外の財政規律は「守るとは限らない」などと拒否するのでしょうか。何を言っているのか、私には理解できません。
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